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ゲーテいわく

「地震とはめまいのようなものである」。ある地質学者の本で見つけたせりふだが、さて出典はいずこに。ドイツではほとんど地震が起きない。遙か南のイタリア、ギリシャあたりで起きた地震による揺れの実感をいったものだろうか。ゲーテと地震の接点として考えられるのは、1775 年はキリスト教の万聖節に当たる 11 月1日のリスボン地震である。マグチュード8.5、2011年の東北地方太平洋沖地震には及ばぬが、最大級の規模と推定され、地震動、20m の津波と火災でリスボンの死者は9万といわれる。被害の甚大さもさることながら、カトリックの国ポルトガルの首都が、こともあろうにすべての聖人を記念する日に聖堂もろとも灰燼に帰すとは、人々の喪失感はいかばかりか。ゲーテはこのとき6才、自伝には「神の善意が多少疑わしく思えてきた」とのみある。

 一方でゲーテは予知に並々ならぬ関心を寄せていた。エッカーマンはその著書「ゲーテとの対話」の中で、ゲーテに 20 年近く仕えた従僕から聞いた話として、ゲーテが地震雲で予知したことを紹介している。ゲーテ27 才の頃、イタリアはメッシナの地震とある。手元の地震カタログには該当する地震の記録はなく、1783 年、ゲーテ 34 才の時のメッシナの地震ではないかと推察される。死者は3万とも6万とも。地震の4年後にゲーテはこの地を訪れ「町の中へ入ってみると破壊された町という凄惨至極な概念を与えられた」と記しているが、地震雲への言及は無い。

 ゲーテの地震雲とはどんなものだったのか。「深く垂れ込めた」という従僕による描写があるのみで、詳細は不明である。世に地震雲を見たと称する人は多いが、いずれも通常の大気現象として説明がつき、地震とは関係ないとするのが定説である。しかし、地下の岩石の破壊や変形に伴う電磁気現象との関連を指摘する人もいる。

 電磁気に基づく地震予知は時に騒ぎを起こす。記憶に残るところでは2003 年、 FM 電波を用いた方法で、串田嘉男氏が、「9月 14 日~19日に南関東でマグニチュ ード7以上の地震が起こる」と予測した。これが週刊誌やネットで広がったのだ。

 しかし、氏の予測は期間が限定されているものの、規模の幅が大きく、小さい地震がいくつか -足し合わせてもエネルギー的にはずっと小さい- 発生しても予測は的中としている。したがって、高い的中率という評判は見掛けに過ぎないのではないか。串田氏の了解のもと、過去の予測情報を調べたことがある。段ボール箱いっぱいのファックス紙を丹念に読み解く根気の要る作業であった。残念ながら、大きな地震に対してはまぐれ当たりの域を出ていないという結果になった。

 動物の異常行動についても、時に電磁気との関わりが論じられる。2008年の四川大地震でもヒキガエルが数十万匹一斉に移動したことが報じられていた。こうした話を聞くたびに大学卒業の 1973 年を思い出す。当時の新聞によると、まず2月1日に浅間山が噴火。5月 23 日地球資源衛星アーツにより関東南部をほぼ東西に横切る大きな活断層が発見され、「第二次関東大震災が近い」という噂が流れた。米コロンビア大のショルツによる「房総半島で進行中の隆起からみて数年以内に M7以上の地震」という予測も出て、いつしか「6月 11 日に大地震」 となり、館山市などでは非常食の買いだめ騒ぎになった。5 月 30 日に小笠原諸島の西之島で海底火山が爆発 (後の西之島新島)、6月 17 日にかねて活動の空白が指摘されていたところで根室半島沖地震 M7.4 が発生。

 まだ続く。6月 21 日、豊島、中野、新宿のど真ん中に赤とんぼの大群が来襲し、一面真っ赤に染まり、空は暗くなった。その翌日横浜港に秋刀魚の大群が押し寄せた。年々汚染の進んでいた東京湾に秋刀魚が姿を見せたのは戦後初めてのこと。さらにその二日後、海老名市のどぶ川に、西日本の山間清流にしかいないはずのオオサンショウウオが出現。同じころ都内各地の住宅地に体長2mをこえる青大将、しまへび出没。そして蜂の大群、蟻の大群が。極め付きは7月 18 日、古来凶事の前触れとされる出来事が - 奈良の猿沢の池が白昼真っ赤になったのだ。

 不気味な天変地異のプロローグからクライマックスへ、この年ベストセラーとなった「日本沈没」のシナリオが現実のものに … かに見えた。が、こともなく年は明けた。いや、こう簡単に締めくくっては動物の予知能力に対して礼を失することになろうか。実際に日本は沈没しそうになったのだ。動物たちは遠い中東を震源とする石油ショックという未曾有の経済危機の襲来を告げようとしていたのかもしれない。人々は大地震さながらのパニックに狂奔し、トイレットペーパーを買いあさった。これも確かに足元の揺らぐ壮大なめまいであった。
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防空頭巾

こんにちは。
当時、そろそろ関東大震災が来るだろうという事で、学校では各家庭に防空頭巾を作らせて、子供達は椅子の座布団代わりにしていました。
地震は人間が都市を作って住んでいるから災害になるのであって、縄文時代のような人口3万人程度なら、「あっ、大きな波が来て何人か流された」で済まされてしまったのでしょうね。
標高マイナス1mに住んでいる私は、大震災が恐ろしいです。

Re: 防空頭巾

防空頭巾とは戦時中のようになりましたね。

古事記や日本書紀の神話には不思議なことに地震が出て来ません、今と同じ様に起きていたにも関わらず。

日本の地震資料を収集した武者金吉は、我々の先祖は貧しくて、穴蔵生活をしていたからだという説を唱えました。縄文時代の竪穴住居ぐらいだと地震にも強く、台風でも藁が飛んで行くだけだったんでしょうね。

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技術系の某役所を退職後、あり余る時間を使い、妄説探索の旅へ。理系老人の怪刀乱魔。

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