曽野話法 − 砂上論法を斬る(21)
根拠は砂上
曽野氏はしばしば匿名人物の発言を元に議論を展開する。同様のことが文献においても認められる。曽野氏は捏造同然の陣中日誌を平然と引用したという武勇伝の持ち主だが、そこまで極端ではなくとも読者が直に確認出来ないような文献は要注意である。
渡嘉敷島の住民側の戦記として、文章が酷似した『戦斗概要』と『戦争の様相』の2つがあること、「赤松隊長が自決命令を下した」という一文は前者のみにあることを前回述べた。曽野氏はこの記述がない『戦争の様相』が最終結論であることを結論づけようとする。そのためには、『戦争の様相』が『戦斗概要』より時期的に後でなければならない。
曽野氏が根拠にしたのは、両文献を比較して得られた次の特徴であった。
(1)旧仮名の混じっている割合は、『戦斗概要』が『戦争の様相』よりやや多い。
(2)『戦斗概要』にはどうとでも読める崩し字があり、それが『戦争の様相』ではいかにもそう読めるように改められている。
つまり、『戦斗概要』がより古びていること、『戦争の様相』が『戦斗概要』を引き写したと見られることである。
ところで、この真偽を確かめることは非常に困難である。ごく少数の関係者が所有していたコピーを別にすれば、『戦争の様相』は琉球大学の図書館、『戦斗概要』は渡嘉敷村の役場にしかなかったからだ。したがって曽野氏の観察(1)(2)を受け入れて『ある神話の背景』を読み進むことになる。通常はこれで問題が無いのだが、曽野氏の場合この常識によっては危ない。
伊敷清太郎氏が仔細に検討してみると(1)(2)は誤りで
(1')旧仮名の混じっている割合はほぼ同じ。変体仮名を含めれば、『戦争の様相』の方がより多い。
(2')『戦斗概要』にどうとでも読める崩し字はない。
であることが判明した。同氏の検討によれば、曽野氏とは正反対で、『戦争の様相』が『戦斗概要』より古い。ここに曽野氏の論を適用すれば「赤松隊長は自決命令を出した」が村の最終結論だったことになる。
曽野氏の手法は、詭弁テクニックとして知られるクォートマイニング(quote mining)と言えるだろう。クォートマイニングは、記述や発言の一部を文脈から切り離して引用し、執筆者や発言者の意図を捻じ曲げて提示することであるが、広義には元の言説からは導けない結論を引き出すことも含まれよう。一度でもこんなことをすれば信用を失ってしまうのだが、どういうわけか、曽野氏は相変わらず保守論壇の重鎮である。
曽野氏はしばしば匿名人物の発言を元に議論を展開する。同様のことが文献においても認められる。曽野氏は捏造同然の陣中日誌を平然と引用したという武勇伝の持ち主だが、そこまで極端ではなくとも読者が直に確認出来ないような文献は要注意である。
渡嘉敷島の住民側の戦記として、文章が酷似した『戦斗概要』と『戦争の様相』の2つがあること、「赤松隊長が自決命令を下した」という一文は前者のみにあることを前回述べた。曽野氏はこの記述がない『戦争の様相』が最終結論であることを結論づけようとする。そのためには、『戦争の様相』が『戦斗概要』より時期的に後でなければならない。
曽野氏が根拠にしたのは、両文献を比較して得られた次の特徴であった。
(1)旧仮名の混じっている割合は、『戦斗概要』が『戦争の様相』よりやや多い。
(2)『戦斗概要』にはどうとでも読める崩し字があり、それが『戦争の様相』ではいかにもそう読めるように改められている。
つまり、『戦斗概要』がより古びていること、『戦争の様相』が『戦斗概要』を引き写したと見られることである。
ところで、この真偽を確かめることは非常に困難である。ごく少数の関係者が所有していたコピーを別にすれば、『戦争の様相』は琉球大学の図書館、『戦斗概要』は渡嘉敷村の役場にしかなかったからだ。したがって曽野氏の観察(1)(2)を受け入れて『ある神話の背景』を読み進むことになる。通常はこれで問題が無いのだが、曽野氏の場合この常識によっては危ない。
伊敷清太郎氏が仔細に検討してみると(1)(2)は誤りで
(1')旧仮名の混じっている割合はほぼ同じ。変体仮名を含めれば、『戦争の様相』の方がより多い。
(2')『戦斗概要』にどうとでも読める崩し字はない。
であることが判明した。同氏の検討によれば、曽野氏とは正反対で、『戦争の様相』が『戦斗概要』より古い。ここに曽野氏の論を適用すれば「赤松隊長は自決命令を出した」が村の最終結論だったことになる。
曽野氏の手法は、詭弁テクニックとして知られるクォートマイニング(quote mining)と言えるだろう。クォートマイニングは、記述や発言の一部を文脈から切り離して引用し、執筆者や発言者の意図を捻じ曲げて提示することであるが、広義には元の言説からは導けない結論を引き出すことも含まれよう。一度でもこんなことをすれば信用を失ってしまうのだが、どういうわけか、曽野氏は相変わらず保守論壇の重鎮である。
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