米議会調査局報告書:沖縄基地問題
今月初めに表記の報告書が出され、マスコミが取り上げている。紹介のトーンはかなり幅があるようなので原資料に直接当たってみた。
本ブログが遅くなったのは原資料を探すのに手間取ったせいである。米国大使館のサイトに入ればすぐに手に入ると思ったがそうではなかった。今回のバージョンはこちら。また今年1月のバージョンはこちら。
タイトルは "Japan-U.S. relations: Issues for Congress"で執筆者5名は同じ。日米関係のいろいろな問題を取り上げているのだが、基地問題は2カ所:1)「沖縄における基地の再配置」 2)「沖縄における米国の軍事的プレゼンスの再配置」で取り扱っている。
似たようなタイトルだが、1)が最近のトピック、2)がやや長いタイムスパンを取扱っているという違いがある。この一連の報告書は、2)はほとんどいじらず、1)を適宜書き換えていくというスタイルのようだ。実際、2)は1月バージョンとほとんど同じである。
これに対し、1)は1月バージョンでは「沖縄人は米軍基地の再配置に反対する政治家を選んだ」というタイトルで、県知事選挙、衆議院議員選挙で反対派が勝利を収めた事を紹介していた。
今回はこれに代えて、翁長知事が埋め立て承認を取り消し法廷闘争に入ると宣言した事を紹介し(報告書に日付は9月29日なので、この時点ではまだ取り消してはいない)、日本政府は、承認手続きに法的瑕疵はなく、裁判中も建設する権限があると確信しているようだとしている。
今回新しい表現として
・2015年後半に新しいフェイズに入りつつある様に見える
・政治闘争が激化するフェイズに入るかもしれない
が注目される。また、「キャンプ・シュワブの外での抗議行動がエスカレートするかもしれない、辺野古移設阻止の為に過激な行動をとるかも知れない」とも言っている。過激な行動の可能性については、1月の報告書でも言及しているが、「エスカレート」とセットにしてより現実性を感じさせる書き方になっている。
さて、相手のいやがる手を打つのが常套手段だが、新基地阻止へ新組織「オール沖縄県民会議」の結成http://ryukyushimpo.jp/news/entry-161112.htmlは正鵠を射ていよう。「ゲート前の活動強化を当面の取り組み」に掲げている。現地に足を運んだ経験から言うともう少しデモ隊の規模が大きくなる必要がある。今後の動きに期待したい。
ところで、まともな政府なら避けて通るはずのことを安倍政権はやっている。国交相が埋め立て承認の取り消しを無効と判断するのは異とするにあたらないが、地方自治法に基づいて知事に是正勧告を行い、従わない場合は最終的に国交相による代執行などの手続きに着手することを決定したというわけだ。https://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=138927
政府としては、県の事情聴取に応じ、あれこれの手続きに時間を費やしその間に工事をせっせと進め既成事実を作り上げる。一方で、裏から手を回して地元の懐柔につとめ、選挙でひっくり返す。これが定跡である。
今回の定跡はずしがアメリカの意向・指示とは思えない。アメリカの基本認識は、2)の末尾を
・東京とワシントンが高圧的な行動(heavy-handed action)をとると反基地運動が強まる
と締めくくっている様に、全面的な基地撤去運動に発展することを避けなければいけないというものだ。軍事的意味がほとんどない僅かな規模の海兵隊(駐留する第3師団の戦闘部隊は1個大隊800人だけで後の1万何千人は非戦闘員。幽霊師団とも言われる。)の沖縄駐留にこだわって、嘉手納基地を危うくするは愚の骨頂である。
では、政府がここまで急ぐ理由はなんだろうか。工事を強行しては、流血騒ぎになって面倒と見たのか。地裁をとばして、高裁の平目裁判長で勝算ありと読んだのだろうか。
しかし、いずれにせよ、沖縄県民のアイデンティティー意識の高まりを過小評価しているのではないか。独立運動の動きも活発になってくるだろう。まさに「新しいフェイズ」に、そして「後戻りできないフェイズ」に入ることも十分考えられる。
<以下備忘録>
沖縄タイムスの記事が原資料に最も近く、ついで朝日である。NHKは、見かけ上の中立を装いつつ、政権に気を使っているのがよく分かる。なお、琉球新報は共同通信の記事を配信しているが基地関係の部分が欠落している?
・沖縄タイムス 2015年10月13日 08:55
【平安名純代・米国特約記者】米議会調査局は6日に公表した日米関係に関する最新報告書で「普天間飛行場の移設をめぐる東京と沖縄の政治的論争は、今年後半に新たな段階に移行しつつある」と指摘。埋め立て承認の取り消しをめぐり、日本政府と県が法廷で争う間も辺野古での工事は継続されると分析し、こうした状況が「激しい政治闘争の局面につながる可能性がある」と懸念を示した。
報告書は、日米両政府が10年以上も辺野古移設に取り組んできたものの、県民の多くは反対しており、日本政府と県の協議も妥協や変化をもたらさなかったなどとこれまでの動向を説明。「前知事による埋め立て承認をめぐり、日本政府は瑕疵(かし)がないと主張しており、埋め立て工事を継続する予定だ」と説明した。
そのうえで、「翁長雄志知事は前知事の埋め立て承認を取り消し、法廷で争うと宣言したが、日本政府関係者は承認に法的瑕疵はないと確信している。法廷で争われている期間中も(日本政府は)工事を継続する権限を有している」と指摘。「こうした状況は政治的闘争を激化させる可能性がある。県民のキャンプ・シュワブ前での抗議活動がエスカレートし、埋め立てを阻止するために過激な手段に訴えるかもしれない」などと警鐘を鳴らした。
・朝日デジタル 10/9
米議会「東京と沖縄、激しい政治闘争に」 報告書で懸念
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設問題に関し、「東京と沖縄の論争は新たな段階に入ったように思われる。激しい政治闘争につながる可能性がある」と先行きに懸念を示した。
報告書では、沖縄県の翁長雄志(おながたけし)知事が辺野古沿岸部の埋め立ての承認取り消しを強く主張し、日本政府との対立が深まっていると指摘。「基地移設反対派が辺野古の埋め立て開始を阻もうと、周辺で抗議活動をエスカレートさせるなど、過激な手段をとるかもしれない」との見通しを示した。
・NHK NEWS 10/10
アメリカ軍普天間基地の移設計画を巡って、沖縄県の翁長知事が移設先となる名護市辺野古沖の埋め立て承認を取り消す方針を表明したことなどに触れ、日本政府と沖縄県の対立が深まっているとして、「移設の実現には懸念が残っている」と指摘しました。
・共同 10/7 10:43
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古沿岸部への移設問題では、日本政府と沖縄県の対立で移設計画が「遅れかねない」と憂慮。同時に、翁長雄志知事が辺野古沿岸部の埋め立て承認取り消しの意向を表明したことで、移設をめぐる日本政府と沖縄県の論争は「新たな段階に入った」と分析した。
・時事 10/7 08:19
米議会調査局は6日、日米関係に関する新たな報告書を公表し、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設問題について「東京と沖縄の論争は新たな段階に入りつつある。激しい政治闘争の局面につながる可能性がある」と懸念を示した。
報告書は冒頭、安全保障関連法成立など日米関係をめぐる最近の動きを「進展」と評価しながらも、「普天間移設に懸念が残る」と指摘。沖縄県が辺野古沿岸部の埋め立て承認取り消しに向けて手続きを進めていることを報告した上で、「移設反対派が抗議活動をエスカレートさせ、過激な手段に訴えるかもしれない」と警鐘を鳴らした。
・産経 10/7 11:51
共同の引用
本ブログが遅くなったのは原資料を探すのに手間取ったせいである。米国大使館のサイトに入ればすぐに手に入ると思ったがそうではなかった。今回のバージョンはこちら。また今年1月のバージョンはこちら。
タイトルは "Japan-U.S. relations: Issues for Congress"で執筆者5名は同じ。日米関係のいろいろな問題を取り上げているのだが、基地問題は2カ所:1)「沖縄における基地の再配置」 2)「沖縄における米国の軍事的プレゼンスの再配置」で取り扱っている。
似たようなタイトルだが、1)が最近のトピック、2)がやや長いタイムスパンを取扱っているという違いがある。この一連の報告書は、2)はほとんどいじらず、1)を適宜書き換えていくというスタイルのようだ。実際、2)は1月バージョンとほとんど同じである。
これに対し、1)は1月バージョンでは「沖縄人は米軍基地の再配置に反対する政治家を選んだ」というタイトルで、県知事選挙、衆議院議員選挙で反対派が勝利を収めた事を紹介していた。
今回はこれに代えて、翁長知事が埋め立て承認を取り消し法廷闘争に入ると宣言した事を紹介し(報告書に日付は9月29日なので、この時点ではまだ取り消してはいない)、日本政府は、承認手続きに法的瑕疵はなく、裁判中も建設する権限があると確信しているようだとしている。
今回新しい表現として
・2015年後半に新しいフェイズに入りつつある様に見える
・政治闘争が激化するフェイズに入るかもしれない
が注目される。また、「キャンプ・シュワブの外での抗議行動がエスカレートするかもしれない、辺野古移設阻止の為に過激な行動をとるかも知れない」とも言っている。過激な行動の可能性については、1月の報告書でも言及しているが、「エスカレート」とセットにしてより現実性を感じさせる書き方になっている。
さて、相手のいやがる手を打つのが常套手段だが、新基地阻止へ新組織「オール沖縄県民会議」の結成http://ryukyushimpo.jp/news/entry-161112.htmlは正鵠を射ていよう。「ゲート前の活動強化を当面の取り組み」に掲げている。現地に足を運んだ経験から言うともう少しデモ隊の規模が大きくなる必要がある。今後の動きに期待したい。
ところで、まともな政府なら避けて通るはずのことを安倍政権はやっている。国交相が埋め立て承認の取り消しを無効と判断するのは異とするにあたらないが、地方自治法に基づいて知事に是正勧告を行い、従わない場合は最終的に国交相による代執行などの手続きに着手することを決定したというわけだ。https://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=138927
政府としては、県の事情聴取に応じ、あれこれの手続きに時間を費やしその間に工事をせっせと進め既成事実を作り上げる。一方で、裏から手を回して地元の懐柔につとめ、選挙でひっくり返す。これが定跡である。
今回の定跡はずしがアメリカの意向・指示とは思えない。アメリカの基本認識は、2)の末尾を
・東京とワシントンが高圧的な行動(heavy-handed action)をとると反基地運動が強まる
と締めくくっている様に、全面的な基地撤去運動に発展することを避けなければいけないというものだ。軍事的意味がほとんどない僅かな規模の海兵隊(駐留する第3師団の戦闘部隊は1個大隊800人だけで後の1万何千人は非戦闘員。幽霊師団とも言われる。)の沖縄駐留にこだわって、嘉手納基地を危うくするは愚の骨頂である。
では、政府がここまで急ぐ理由はなんだろうか。工事を強行しては、流血騒ぎになって面倒と見たのか。地裁をとばして、高裁の平目裁判長で勝算ありと読んだのだろうか。
しかし、いずれにせよ、沖縄県民のアイデンティティー意識の高まりを過小評価しているのではないか。独立運動の動きも活発になってくるだろう。まさに「新しいフェイズ」に、そして「後戻りできないフェイズ」に入ることも十分考えられる。
<以下備忘録>
沖縄タイムスの記事が原資料に最も近く、ついで朝日である。NHKは、見かけ上の中立を装いつつ、政権に気を使っているのがよく分かる。なお、琉球新報は共同通信の記事を配信しているが基地関係の部分が欠落している?
・沖縄タイムス 2015年10月13日 08:55
【平安名純代・米国特約記者】米議会調査局は6日に公表した日米関係に関する最新報告書で「普天間飛行場の移設をめぐる東京と沖縄の政治的論争は、今年後半に新たな段階に移行しつつある」と指摘。埋め立て承認の取り消しをめぐり、日本政府と県が法廷で争う間も辺野古での工事は継続されると分析し、こうした状況が「激しい政治闘争の局面につながる可能性がある」と懸念を示した。
報告書は、日米両政府が10年以上も辺野古移設に取り組んできたものの、県民の多くは反対しており、日本政府と県の協議も妥協や変化をもたらさなかったなどとこれまでの動向を説明。「前知事による埋め立て承認をめぐり、日本政府は瑕疵(かし)がないと主張しており、埋め立て工事を継続する予定だ」と説明した。
そのうえで、「翁長雄志知事は前知事の埋め立て承認を取り消し、法廷で争うと宣言したが、日本政府関係者は承認に法的瑕疵はないと確信している。法廷で争われている期間中も(日本政府は)工事を継続する権限を有している」と指摘。「こうした状況は政治的闘争を激化させる可能性がある。県民のキャンプ・シュワブ前での抗議活動がエスカレートし、埋め立てを阻止するために過激な手段に訴えるかもしれない」などと警鐘を鳴らした。
・朝日デジタル 10/9
米議会「東京と沖縄、激しい政治闘争に」 報告書で懸念
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設問題に関し、「東京と沖縄の論争は新たな段階に入ったように思われる。激しい政治闘争につながる可能性がある」と先行きに懸念を示した。
報告書では、沖縄県の翁長雄志(おながたけし)知事が辺野古沿岸部の埋め立ての承認取り消しを強く主張し、日本政府との対立が深まっていると指摘。「基地移設反対派が辺野古の埋め立て開始を阻もうと、周辺で抗議活動をエスカレートさせるなど、過激な手段をとるかもしれない」との見通しを示した。
・NHK NEWS 10/10
アメリカ軍普天間基地の移設計画を巡って、沖縄県の翁長知事が移設先となる名護市辺野古沖の埋め立て承認を取り消す方針を表明したことなどに触れ、日本政府と沖縄県の対立が深まっているとして、「移設の実現には懸念が残っている」と指摘しました。
・共同 10/7 10:43
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古沿岸部への移設問題では、日本政府と沖縄県の対立で移設計画が「遅れかねない」と憂慮。同時に、翁長雄志知事が辺野古沿岸部の埋め立て承認取り消しの意向を表明したことで、移設をめぐる日本政府と沖縄県の論争は「新たな段階に入った」と分析した。
・時事 10/7 08:19
米議会調査局は6日、日米関係に関する新たな報告書を公表し、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設問題について「東京と沖縄の論争は新たな段階に入りつつある。激しい政治闘争の局面につながる可能性がある」と懸念を示した。
報告書は冒頭、安全保障関連法成立など日米関係をめぐる最近の動きを「進展」と評価しながらも、「普天間移設に懸念が残る」と指摘。沖縄県が辺野古沿岸部の埋め立て承認取り消しに向けて手続きを進めていることを報告した上で、「移設反対派が抗議活動をエスカレートさせ、過激な手段に訴えるかもしれない」と警鐘を鳴らした。
・産経 10/7 11:51
共同の引用
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