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新型コロナの話題 2度目の緊急事態宣言(2)


 前回ブログ(1月19日)のフォーローアップである。日々報告される感染者数は減少しているが、当初想定の範囲内かどうか、今後の見通しはどうか。

1 前回の見立て


 前回の見立ては次の通りであった。感染者数のピークは打った。今後減少に向かうが、シナリオは2つある。年末から年始にかけて人出は減少したが、直近では増大しつつある。年末年始のレベルを維持できれば、シナリオA) 図1の橙の曲線を挟む範囲内、増大しつつあるレベルだと シナリオ B)緑の曲線を挟む範囲内である。この見通しには、飲食店の時短要請がどの程度機能するかは考慮していない。
 懸念材料としてピークは打ったらしいものの年末の感染者の急増がある、その原因は不明である。

コロナ図T6.1


図1 緊急事態宣言発出後のシナリオ(前回ブログ)


縦の灰色実線で示した開始日に削減を実施。その時の実効再生産数1.1、報告された感染者数2000人とする。約5~6日後にピークに達し、その後は削減率に応じた減衰を示す。削減率は、赤は6割、橙は4割、緑は2割である。
縦の灰色点線は削減開始から30日後、横の灰色実線は500人である。30日後に500人以下という目標を達成するには4割以上の削減を実施する必要がある。
年末年始に人出が低下したが、そのレベルを維持できれば橙の曲線を挟む範囲内である。直近で人出が増大しつつあるが、そのレベルに戻るようだと緑の曲線を挟む範囲内である


2 その後の状況



a. 日々報告される感染者数と実効再生産数
 日々報告される感染者数と実効再生産数を1月29日まで延長したものである。前回以降も感染者数は減少傾向である。実効再生産数はいったん1付近で下げ止まったかに見えたが、22日から再び低下をはじめ、0.8付近の値になった。

コロナ図T6.2


図2 東京における日々報告される感染者数と実効再生産数 $ \mathcal R_t $


感染者数は引き続き減少し、実効再生産数は1付近から0.8付近にまで下がった。2020年12月1日から2021年1月29日


b. アップル移動度
 図3はアップル移動度(walking、東京23区)をプロットしたものである。移動度は12月28日以降に低下している。減少率をみるために青、赤、橙の横線を引いた。基準となる青の時期(ここでは実効再生産数は1.1であった)から見て、赤は3割減、橙は1割5分減である。言い換えると、人出は赤の時期は $ p= 1 -0.3=0.7 $ 倍、橙の時期は $ p= 1 -0.15=0.85 $ 倍になっている。

 前回の報告は橙の横線に上昇したところまでであった。このレベルが続くことを危惧したが、その後元の赤のレベルに戻った。したがって、シナリオA)に沿って事態は進行中と考えられる。


コロナ図T6.3


図4 東京におけるアップル移動度


横線(青、赤、橙)はそれぞれの機関におけるアップル移動度の中央値。赤の網掛は緊急事態宣言の発出期間。


 携帯電話のデータを元にした人出情報がNHK特設サイトコロナウィルス(街の人出は?全国18地点グラフ)にある。場所は東京駅、渋谷スクランブル交差点、新宿歌舞伎町(夜)、銀座(夜)、六本木(夜)である。

 NHKニュースは、緊急事態宣言が発出された3週間前に比べて人出が増加していると報じていた。しかし、場所にもよるが、まだなんとか踏みとどまっているレベルのように思う。
 
c. 感染日別の感染者数と実効再生産数
 日々報告される感染者数は土日と祝日に検査数が落ち込む影響を受けるため、取り扱いがなかなか面倒である。これに対し発症日別の感染者数はその影響がほとんどなく、感染してから平均的に5日で発症する事実を使えば、近似的に発症日-5日を感染日と見做すことができる。図4はこうして作った感染日別の感染者数とそれに基づく実効再生産数の変化である。

 感染してから隔離されるまでに平均10日要するので、図4を10日後ろにずらせたものが概ね図2に対応する。したがって図2において緊急事態宣言が発出された前後の大きな感染者数のピークは、図4の年末の感染ピークが目に見える形で現れたと言える。

 人出が $ p $ 倍 になったとき、実効再生産数が $ p $ 倍になるか $ p^2 $ 倍 になるかは、状況によるが(注1)、アップル移動度によれば $ p=0.7 $ 、一方、実効再生産数は12月初旬の1.1~1.2から0.86への変化なので0.86/1.2~0.86/1.1 =0.72~ 0.78となる。つまり $ p $ 倍が実況に近い。

 図2と図4において注意すべきは、実効再生産数がまだ下げ止まってはいない可能性である。この点については第4節で述べる。

コロナ図T6.4


図4 感染日別の感染者数と実効再生産数


12月30日のピークから、実効再生産数は一貫して低下した。赤の網掛けは緊急事態宣言の発出期間。10月1日~1月12日


3 今回の見立て


 昨年末から始まった人出の低下その他により実効再生産数が下がってきたので、この状況が今後も継続するという前提で次の手順で予測することができる。

 ベースは日毎のPCR検査数の影響を受けにくい感染日別の感染者数を用いる。値がほぼ確定する15日より以前の感染者数の実効再生産数を用いてSIRモデルから以後の感染者数を予測する。実効再生産数の推測値に誤差があるので、幅つきの予測になる。

 結果は図6である。この図で、棒グラフは日々マスコミから報道された感染者数、赤のグラフは予測の中央値、橙のグラフは90%の予測幅である。予測に際して、発症感染者数を総感染者数に換算している。使用した換算率は1.4で、この数字には10%程度の誤差がある。これも加味した予測幅を図の黒の線分で示した(2月10日)。数字で約550~850人である。

コロナ図T6.5


図5 日々報告される感染者数の推移予測


予測開始日1月11日で2月10日まで予測。赤い曲線は中央値、橙の曲線は予測90%幅を示す。発症感染者数の総感染者数への換算率は1.4で、この誤差も含んだ2月10日時点の予測幅は黒の線分。

 予測の開始日は(感染日別の感染者数がほぼ確定する)現在より15日以上前の日で、ここでは1月11日としている。その日から現在日までの期間は予測と実況の適合度の評価に使える。日々マスコミから報道される感染者数は、土日と祝日の検査数が非常に少ないため、例えば月・火の感染者数が落ち込む。この結果、不自然な凹凸ができるが、この点を勘案して適合度を判断する必要がある。図の予測ではまずまずかと思う。

 この他の留意すべきことは注2)参照されたい。

4 本当に感染者数は減少しているのか?


 感染者数の予測グラフを示しておきながら、今更なんだと叱られそうである。当初は前節までのいわばルーチン処理で終わりにするつもりだった。しかし、結果を見て、さすがに少し変だと気が付いた。

 図2と図4の実効再生産数が、下げ止まっていない可能性があるのだ。実効再生産数が下がったのは、社会活動の自粛のためと考えられるが、人出のデータを見る限り、既に下げ止まっているはずである。また、飲食店への時短要請の効果も実効再生産数の持続的低下とは結び付きにくいように思える。

 可能性として考えられるのは、検査数の減少である。このことをリテラがすでに指摘していることを知った。15(金)~20(水)と22(金)~27日(水)で比較すると検査件数が2割減った。これだけだと「感染者が減ったので検査数も減った」可能性も残されるが、もしそうなら、感染者の年齢別分布はほとんど変わらないはずである。しかし、後の期間では20歳台が減り、65歳以上が増えている。

 「検査数を減らしたから感染者数が減少した」ことを裏付けるもう一つの情報がある。東京都は22日に「積極的疫学調査」の対象を絞るよう、通知を出した。積極的疫学調査とは、陽性者への聞き取り調査などで感染経路や濃厚接触者を洗い出すもので、この通知に従えば、感染者数は当然のことながら減る。この22日は、図2で実効再生産数が1付近から再び低下を始めた日付であることに注意したい。

 この問題は重要なので改めて論じたい。

 なお、前節の感染者数の予測は、感染現象に限らず減衰現象一般に成り立つ方法を用いたので有効である。実効再生産数が引き続き低下した場合、実況が予測の下限を下回る可能性があるという留保条件を付けさえすれば。

 


 場末のブログが何を言おうが気に留める人はいないと思うが、念のため断り書きをさせていただく。
本ブログの予測を使用するに際して、目的に適うかどうかを検討し、必ず他の情報を加えて総合的にご判断ください。本ブログの予測を適用した結果についてブログ人は一切の責任を負いません。


注 釈


(注1)


 新規に発生する感染者数は、感染係数 $ \beta $ 、非感染者数 $ S $ 、感染者数 $ I $ として、 $ \beta S I $ で与えられる。人出が $ p $ 倍になったのだから、 $ SもI $ も $ p $ 倍で、新規に発生する感染者数は $ p^2 $ 倍になる。
 ただし、この換算はいわゆる接待を伴う飲食店には適用されないだろう。 $ S $ は $ p $ 倍になるが、お店が提供するであろう $ I $ はほとんど変わらないだろうから。

(注2)


 $ r = $ 総感染者数÷発症感染者数は、1か月のスパンでみると、1.3~1.6の間を3か月程度かけて変動している。直近では約1.4である。短期的には1割程度の変動がある。
 PCR検査は原則として有症者を対象としているから、 $ r $ が大きくなるのは、大きなあるいは多数のクラスタが発生して、濃厚接触者として数多くの無症感染者が捕捉される場合だと思われる。 $ r $ は、医療崩壊が起きてクラスタが多数発生すれば大きくなり、濃厚接触者の追跡を緩くすれば(第4節参照)小さくなる。 $ r $ の変動に伴い感染者数の予測が動くことを注意しておきたい。
 この予測手法は別ブログで解説する予定である。

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技術系の某役所を退職後、あり余る時間を使い、妄説探索の旅へ。理系老人の怪刀乱魔。

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