曽野話法 - 砂上論法を斬る(5)
得意技を封じられると
「事実は争わず人を攻める」の得意技を封じられると曽野綾子氏は著しく精彩を欠く。典型例を挙げよう。高校日本史教科書『新日本史』の執筆者である家永三郎氏は教科書検定に関して国を相手に裁判を起こした。この第3次裁判で、沖縄戦での住民犠牲が争われ、渡嘉敷島の集団自決を扱った「ある神話の背景」の著者である曽野氏は、1988年2月に国側証人として出廷した。
「事実は争わず人を攻める」の得意技を封じられると曽野綾子氏は著しく精彩を欠く。典型例を挙げよう。高校日本史教科書『新日本史』の執筆者である家永三郎氏は教科書検定に関して国を相手に裁判を起こした。この第3次裁判で、沖縄戦での住民犠牲が争われ、渡嘉敷島の集団自決を扱った「ある神話の背景」の著者である曽野氏は、1988年2月に国側証人として出廷した。
いうまでもないが、裁判では事実関係の争いが基本となり、曽野氏が論戦相手の弁護士を人格攻撃することは許されない。曽野氏の証人尋問でのポイントは「ある神話の背景」の取材が適切だったか、赤松弁護の論理は正当だったか、である。この論戦で、曽野氏はまったくいいところがなかった。
・まず、太田・曽野論争で、曽野氏がスルーした問題。
いい加減な部隊だったと言われては赤松氏の立場は無い。赤松隊が戦意喪失して遊兵化していたとする記述が米軍公刊戦史にある。また、赤松隊が故なく住民を処刑という話もある。これらはやっぱり本当だったんだということになってしまう。
・次に、兵事主任だった富山真順氏の件。
赤松隊と渡嘉敷村の連絡役であり、主要文献に登場する兵事主任である。それを「誰も教えてくれなかったから」という理由で取材しなかったとしたらノンフィクション作家失格である。なお、富山氏が「ある神話の背景」に引用されていることを原告側弁護士が指摘し、曽野氏は一本とられている。自著で引用した人に会わなかったのですかというわけである。
・誰しも不思議に思うが、「ある神話の背景」に書かれていない事項。
陣中日誌は赤松隊長が点検する規則になっており、隊長の認識と異なる事が書かれるはずは無い。曽野氏は、ノンフィクションとしての基本的なチェックを怠ったことになる。
・集団自決に関して、曽野氏の赤松弁護は、自決命令を出したとする証拠はないというものである。一方、これとは別に赤松隊が13名の住民を処刑した事件がある。少なくもそのいくつかに関して、赤松隊長が指示ないし命令を出したことははっきりしている。その正当化に曽野氏は陸軍刑法を持ち出した。
あっさり白旗をあげてしまった。
散々な尋問結果であるが、主観的評価は別のようである。曽野氏は「ほんとうに反対尋問は楽ですね。聞かれたことに答えりゃいいんですから」と歴史研究家の秦郁彦氏との対談(2009)で語っている。曽野氏は幸福な人である。
・まず、太田・曽野論争で、曽野氏がスルーした問題。
問 | 赤松隊長の許可無くして防衛隊員が自決用の手榴弾を住民に配る事はあり得ないのではないか。 |
---|---|
答 | 赤松隊は軍律が厳しくなかったので、土壇場ではあり得た。赤松隊長は手榴弾を配った防衛隊員を |
処罰しなかった。 |
いい加減な部隊だったと言われては赤松氏の立場は無い。赤松隊が戦意喪失して遊兵化していたとする記述が米軍公刊戦史にある。また、赤松隊が故なく住民を処刑という話もある。これらはやっぱり本当だったんだということになってしまう。
・次に、兵事主任だった富山真順氏の件。
問 | 自決用の手榴弾が配られた話を曽野氏にしたという兵事主任の富山真順氏に会ったか。 |
---|---|
答 | 会わなかった。富山氏が重要人物だと誰も教えてくれなかったから。 |
赤松隊と渡嘉敷村の連絡役であり、主要文献に登場する兵事主任である。それを「誰も教えてくれなかったから」という理由で取材しなかったとしたらノンフィクション作家失格である。なお、富山氏が「ある神話の背景」に引用されていることを原告側弁護士が指摘し、曽野氏は一本とられている。自著で引用した人に会わなかったのですかというわけである。
・誰しも不思議に思うが、「ある神話の背景」に書かれていない事項。
問 | 集団自決者の数について、少ないとする赤松氏と約200名の多数とする陣中日誌が食い違う理由は? |
---|---|
答 | 陣中日誌の著者である谷本小次郎氏に聞かないと分からない。 |
陣中日誌は赤松隊長が点検する規則になっており、隊長の認識と異なる事が書かれるはずは無い。曽野氏は、ノンフィクションとしての基本的なチェックを怠ったことになる。
・集団自決に関して、曽野氏の赤松弁護は、自決命令を出したとする証拠はないというものである。一方、これとは別に赤松隊が13名の住民を処刑した事件がある。少なくもそのいくつかに関して、赤松隊長が指示ないし命令を出したことははっきりしている。その正当化に曽野氏は陸軍刑法を持ち出した。
問 | 赤松隊の住民処刑を陸軍刑法を使って正当化しているが、処刑する手続きを定めた軍法会議法も |
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検討する必要があるのではないか。軍法会議法からみれば処刑は不当ではないか。 | |
答 | そのとおりだ。混乱だったという人もいる。 |
あっさり白旗をあげてしまった。
散々な尋問結果であるが、主観的評価は別のようである。曽野氏は「ほんとうに反対尋問は楽ですね。聞かれたことに答えりゃいいんですから」と歴史研究家の秦郁彦氏との対談(2009)で語っている。曽野氏は幸福な人である。
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