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新型コロナ話題  2度目の緊急事態宣言(3)



 


緊急事態宣言を発出されて1ヶ月が経過し、延長されることになった。 前回ブログ(1月30日)で行った予測の評価と今後の見通しについて述べる。

1 前回の見立て


 人の移動度は年末に低下した状態が継続しており、感染者数は引き続き減衰する。実効再生産数の推定値から予測した2月10日までの感染者数が図1である。
 ただし、実効再生算数が下げ止まっていない可能性があるので、予測より下ブレする可能性がある。下げ止まらない一因として1月22日以降に疫学調査の範囲を狭めた影響の可能性がある。

コロナ図T6.5


図1 日々報告される感染者数の推移予測


予測開始日1月11日で2月10日まで予測。赤い曲線は中央値、橙の曲線は予測90%幅を示す。発症感染者数の総感染者数への換算率は1.4で、この誤差も含んだ2月13日時点の予測幅は黒の線分。

2 その後の状況


a. 感染者数(1月30日~2月10日)
 図2は図1にその後の感染者数データを書き入れたものである。この図からわかるように実況は予想より下ブレした。外れた原因が予測の際につけた留保条件によるものか否かは第3節で述べる。

コロナ図T6.2


図2 予測と実況


赤で網掛けした範囲が予測した期間。全期間にわたって実況値は予測値より小さい。


b. 日々報告される感染者数と実効再生産数
 日々報告される感染者数と実効再生産数を2月13日まで延長したものである。前回以降も感染者数は減少傾向である。実効再生産数はいったん1付近で下げ止まったかに見えたが、22日から再び低下をはじめ、25日頃に0.8付近の値になり、その後も緩やかに低下した。2月5日頃からやや増加しその後再び減少した。

コロナ図T6.2


図3 東京における日々報告される感染者数と実効再生産数 $ \mathcal R_t $


感染者数は引き続き減少し、実効再生産数は1付近から0.7付近にまで下がった。


c. アップル移動度
 図4はアップル移動度(walking、東京23区)をプロットしたものである。移動度は12月28日以降低下して、1月末頃まで継続した。青、赤の横線は減少率をみるために引いたもので、基準となる青の時期(ここでは実効再生産数は1.1であった)から見て、赤は3割減である。(以上は前回報告済み)。
 しかし、この後増大に転じて、年末以降の減少幅はかなり小さくなった。要注意の変化であり、人出の減少による感染者数の抑圧は今後期待できなくなることを意味している。

コロナ図T7.4


図4 東京におけるアップル移動度


黒の折れ線はアップル移動度で、直近の増加傾向の部分は赤にした。横線(青、赤)はそれぞれの期間におけるアップル移動度の中央値。赤の網掛は緊急事態宣言の発出期間。


d. 感染日別の感染者数と実効再生産数
 感染してから平均的に5日で発症する事実を使えば、近似的に [発症日 - 5日]を感染日と見做すことができる。図5はこうして作った感染日別の感染者数とそれに基づく実効再生産数の変化である。検査数の人為的変動の影響を受けにくいという長所がある反面、データ値がほぼ確定するのは現在から2週間以上前までと遅れが生じる短所がある。

 前回ブログで言及した「実効再生産数が下げ止まっていない」は次の状況を指す。図3において1付近でいったん停滞していた実効再生産数が1月22日頃から減少に転じた。感染から隔離まで平均10日要するので、図5においてこれに対応するのは1月10日頃に一旦下げ止まった後の減少である。

 「停滞->減少」の切り替わりが両方の図に認められること、疫学調査の範囲を絞り込みの影響を受けやすい図3の方が顕著であることから、検査数の減少が影響しているのではないかと思う。

コロナ図T7.5


図5 感染日別の感染者数と実効再生産数


感染者数と実効再生産数は共に12月末にピークがある。赤の網掛けは緊急事態宣言の発出期間


3 分 析


a. 前回の予測
 実効再生産数が下げ止まっておらず、その原因が検査の絞り込みにある可能性があった。このため前回の予測では、日々報告される感染者数ではなく発症日別の感染者数のデータを使い、予測日を下げ止まっていた時期まで遡らせた。使用した実効再生産数は約0.8となった。この操作をしなければ使用実効再生産数は0.7で、予測はより実況に近くなる。

 検査の絞り込みの悪影響を除こうとして前処理をしたのだが中途半端だったようで、何もしないほうがむしろ良かったといういささかお粗末な結末になってしまった。

b. 第1回の緊急事態宣言ほどの減少はなかった
 感染者数のピーク値が8000近くあり、現在1000~2000であるから、ずいぶん減ったという印象がある。しかし、減り方の速度で見ると第1回の緊急事態宣言時ほどではない。減衰の速さを示すパラメタは実効再生産数の時間変化である。東京都では、第1回宣言時では2.5から0.3程度に急減したのに対し、今回は1.7から0.75程度である。全国的にみても現在の実効再生産数は0.7~0.8である。

 前回における実効再生産数の急減の主たる原因は、緊急事態宣言ではなく、欧州で感染した帰国者の流入がとまったことである(8割削減とは何だったのか(5))。今回はそれがないため減衰の速度が小さいと予想したが、実況もそうなっている。

c. 昨年末の感染者数のピークはなんだったのか?
 今回の緊急事態宣言に関する最初の拙ブログで、12月下旬に感染者数が激増して30日頃にピークを打ったかもしれないこと、およびこの原因は今後の推移に大きな影響を与えるであろうと述べた。ここで、感染者数は、マスコミで報じられている感染者数ではなくて当該日に感染した人の数で、図5に示したものである。
激増の原因として
 1. 外に出なかったが、家庭内の感染が増えた。
 2. 年末年始で気が緩んだ。
 3. 民間のPCR検査が増え、それが加算された。
を予想したが、その後の状況を見ると、消去法で2.が正解に近いようだ。つまり、年末に向けて人の活動度が上がり気も緩み、感染者が急増した。しかし、年末の休暇に入った28日以降に活動度が下がり、年末年始の自粛の呼びかけあり、感染が抑えられた。
 この推測が正しければ、年末年始の活動低下で、奈落の底に落ちるのをからくも免れたということになろうか。

4 今回の見立て


 昨年末から始まった人出の低下その他により実効再生産数が下がってきたので、この状況が今後も継続するという前提で予測することができる。結果は図6の通りである。
 前回は、1月22日以降検査数を絞り込んだ影響を避けるべく、感染日別の感染者数データを使って予測した。今回は、そうした面倒がないので、日々報告された感染者数データをもとにしている。なお、東京都は感染者数を最近訂正したが、この図は訂正後のデータを使っている。

 予測日を2月18日、月末までの感染者数を、赤(中央値)と橙(90%)幅で示している。引き続き減少傾向にあるが、減少幅は100程度で多くは期待できない。

 なお、実効再生産数が直近で上昇に転じており、これは上ブレ要因になる。直近の移動度の上昇(図4)の影響の可能性も否定できず、今後の推移に注意を要する。

コロナ図T7.6


図6 2月末までの感染者数の予測


予測日を2月18日、月末までの感染者数を、赤(中央値)と橙(90%)幅で示す。
直近で実効再生産数が増加傾向に転じているのは要注意。

 人の移動度が変化しつつあるので、この影響を取り入れて予測しなければならない。ブログ人がざっと試みた範囲(過去の事例で予測と実況と比較)では、あまり良い結果が得られていない。拙ブログで述べたことだが、グーグルの予測は人の移動の影響を取り入れてはいるものの、結果は芳しいものではない。これからすると意外に難問なのかもしれない。ある程度の結果が得られたら改めて報告したいと思う。

5 今後のシナリオ


 新型コロナウィルス感染症対策分科会の第24回会合において「緊急事態宣言・解除の影響 シミュレーションによる分析」が経済学分野の研究者らによって報告されている。そこでは、本ブログで扱っている伝染病モデルをベースにしつつ、経済モデルと結合する、あるいは人のネットワークなどの構造を取り入れることが試みられている。新たに提唱されたモデルは3つである。

 伝染病の視点からは
 ・ 感染者数は解除の方法にどのように依存するか
 ・ ワクチンの接種は感染者数にどう影響するか
が問題になる。
 経済学的視点を入れた結論は、緊急事態宣言の解除は段階的に行うのが望ましい、また、ワクチンの早期配布を実現して経済重視に切り替えるのが望ましい、ということのようである。

 これらの報告は概要を記すのみで詳しい状況は分からない。経済分析はプロがやっていることなので信用するとして、伝染病に関する部分は注意して読む必要がありそうだ。ワクチンに関しては元になっているのはこの論文らしいが、そこでは、ワクチンを打つと免疫ができて、以後感染せず、他人も感染させないことを想定している。
 昨今マスコミで報じられているワクチンの高い有効性は、発症率に関するもので、感染率に関するものではない。新型コロナウィルスの厄介なところは、発症しない感染者が他人を感染させ得ることである。ワクチンを打ったものの感染、しかし発症しないまま他人を感染させるとすれば話はかなり変わってくると思う。感染抑止がなかなか進まず、経済重視への切り替えが困難になることも想定されるのではないか。

 今後のシナリオという意味では、オリンピックを開催する場合に感染状況がどうなるのかのシミュレーションも必要と思う。すでに中止に決定していて、落としどころを探っているというのなら、放置でもかまわないが。もう一つ必要なのは、感染力の強い変異種の感染拡大に関するシナリオである。


おことわり
本ブログの予測を使用するに際して、目的に適うかどうかを検討し、必ず他の情報を加味して総合的にご判断ください。本ブログの予測を適用した結果についてブログ人は一切の責任を負いません。

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技術系の某役所を退職後、あり余る時間を使い、妄説探索の旅へ。理系老人の怪刀乱魔。

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