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8割削減とは何だったのか?  新型コロナの伝染病モデル (7)



 


 SIRモデルでは、流行の山はひとつだけであることを連載(2)で述べた。現実には何度も流行が見られるのだが、その原因として回復者が免疫を喪失して再度可感染者になることが考えられる。これまでに経験した第2波、第3波はこのプロセスによるものかどうか検討してみよう。

7.1 SIRSモデル


 このいわばフィードバック過程を入れたモデルは昔から考えられていてSIRSモデルという。流れ図は図6.1で、可感染者$S$は感染して、感染者$I$になり、検査を経て隔離者$R$になる。これがSIRモデルであるが、SIRSモデルでは、隔離者$R$は免疫を喪失して可感染者$S$になる。$R$はこれまでの用語では隔離者あるいは回復者の数であったが、免疫を持つ人の数と言った方が理解しやすい。$S$は免疫を持たない人の数である。

コロナ図7.1

図7.1 SIRSモデルの流れ図


可感染者$S$は感染して、感染者$I$になり、検査を経て隔離者$R$になる。これがSIRモデルであるが、SIRSモデルでは、隔離者$R$は免疫を喪失して可感染者$S$になる。

 方程式系は
\begin{align}
\frac{dS(t)}{dt} &= -\beta S(t)I(t) + \nu R(t) \tag{7.1}\\
\frac{dI(t)}{dt} &= \beta S(t)I(t) - \gamma I(t) \tag{7.2}\\
\frac{dR(t)}{dt} &= \gamma I(t) - \nu R(t) \tag{7.3}
\end{align}
 (7.1)と(7.3)の右辺にある項 $\nu R(t)$が免疫の喪失を表している。この方程式でも$S(t)+ I(t) +R(t)=N$(総人口で一定)を満たしていることに注意する。
 さて、免疫の喪失の速さを示すパラメタ$\nu$に関して次の報告がある。英イングランド地方の36万人以上の成人に対して、6月下旬から7月上旬に全体の6%から抗体を検出したが、9月には4.4%に減じていたというから(共同通信10/28)、期間を2ヶ月(60日)、その間に指数関数的に減少したと仮定して
\begin{align}
\nu = -\log(4.4/6)/60 \simeq 0.005 \tag{7.4}
\end{align}
となる。抗体を失う平均日数は約$1/\nu = 200$日である。東京⼤医科学研究所の研究は、抗体が少なくとも3~6ヶ月維持されるとしている(毎日新聞2021年2月16日)。「少なくとも」と言っているので、オーダー的にはあっていると思われる。

 抗体の保持と免疫の獲得は同じではないのだが、ひとまず同一視し、この$\nu$の値を使って計算した結果が図7.2である。ここで、他のパラメタ値は本連載(2)の図2.1と同じで、$S(0)= 10^7、I(0)=1, R(0)=0$とした。

コロナ図7.2


図7.2 SIRSモデルの典型的な変化


感染者数$I$の山が何度かでき、ピーク値はさがり、最終的に(7.6)式で与えられる0でない平衡値に近づく。免疫を持たない人の数$S$や免疫を持つ人の数$R$は振動しながらそれぞれ平衡値(7.5)と(7.7)に近づく。 $S(0)=10^7$ (人口1千万人)、$ I(0)=1$ (初期感染者1人) 、$\gamma =0.1$ (感染から隔離までの平均日数10日) 、基本再生産数 $ \mathcal R_0= \beta S(0)/\gamma = 2.5 $ の場合。

 図から分かるように感染のピークが何度か現れており、感染のピークの高さは回を重ねるほどに低くなっていることが分かる。$S, I, R$はある値に近づいているが、これはSIRSモデルの自明でない平衡解((7.1-7.3)で右辺=0から得られる)の値
\begin{align}
S_1 &= \gamma/\beta \tag{7.5} \\
I_1 &= \frac{\nu}{\gamma + \nu}(N - \gamma/\beta)\tag{7.6} \\
R_1 &= \frac{\gamma}{\gamma + \nu}(N + \gamma /\beta) \tag{7.7}
\end{align}
である。
 この図は$\mathcal R_0=2.5$の場合を示したものであるが、より小さい値で感染者数$I$がどのように変化するかを示したのが図7.3である。 $\mathcal R_0$が小さいほどピーク値は下がり、ピーク間の日数は大きくなる。

コロナ図7.3


図7.3 基本再生産数$\mathcal R_0$を変化させた場合


$\mathcal R_0$を変化させた時の感染者数$I$の変化。$\mathcal R_0$が小さいほどピーク値は下がり、ピーク間隔は大きくなる。

7.2 未発症感染者の存在



コロナ図7.4


図7.4 SEIARSモデルの流れ図



 図7.4は図7.2と対応する。図7.2のSIRSモデルと類似の変化をするが、最終的な値でみて、可感染者数はより小さく、回復者数はより大きくなっている。第1波で無症状感染者の存在のため多数が感染し、その結果、免疫を持った回復者が多数発生したためと考えられる。

コロナ図7.5


図7.5 SEIARSモデルの場合の典型的な変化


SEIARSモデルの場合の可感染者数$S$、感染力を有する感染者数$I+A$、回復(免疫を持った人の)数$R$の時間変化。図7.2のSIRSモデルと類似の変化をするが、回復者数はSIRモデルの場合より大きい。

7.3 第2波、第3波の原因


 (7.4)式からも予想がつくように、我が国で実際に観察された第1波、第2波、第3波の間隔は図7.3から想定される数字より短く、免疫の喪失による感染の再流行、再々流行とは考えにくい。
 第1波、第2波で感染爆発を起こしたわけではないので、ウィルスが市中に残存した状態で元の生活への復帰、あるいは、GoToトラベルやGoToイートなどの感染拡大行為、気温・湿度の低下などの自然条件の変化などがあれば、感染係数$\beta$が増大して、その結果、実効再生産数が上がって再流行、再々流行を許したと考えるほうが自然だろう。

 以上は抗体の保持と免疫の獲得を同一視した結論である。抗体を保持していても免疫を獲得しているとは限らない。つまり、免疫の平均有効期間200日は過大である可能性がある。回復して間もない人が再感染した例も 報告 されているようで、このあたりの情報がもう少し得られれば、再度検討したいと思う。
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技術系の某役所を退職後、あり余る時間を使い、妄説探索の旅へ。理系老人の怪刀乱魔。

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