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新型コロナの話題  Go To トラベル



 国内旅行を金銭的に国が支援するGoTo トラベル事業は7月22日に開始され、当初除外されていた東京も10月1日に適用対象となった。新型コロナウィルスは人が媒介して拡散するので、GoTo トラベル事業が感染拡大の一因であることは容易に想定されるが、統計的にも確認されたようだ。
 感染者がほとんどいない地域に外部から感染者が流入して域内の感染者は増えるが、時として変化は急激である。その最初の例と見られるのが昨年7月の沖縄県である。実際に何が起こったのかモデルで推測してみよう。

 図1は沖縄県の日々報告される感染者数と実効再生産数$\mathcal R_t$の推移である。

コロナ図T1.1


図1 沖縄県の感染者数と実効再生産数の推移


赤丸:GoToトラベルの開始(7/22)、赤矩形:4連休(7/23--26)、黒丸:知事緊急事態宣言(7/31)、黒三角:知事お盆の帰省の自粛要請(8/5)、赤三角:東京がGoTo トラベルの対象に(10/1)。

 感染者数から、4月の第1波、7月中旬から9月中頃までの第2波、その後ピークはそれほどはっきりしない第3波が続いていることが分かる。第2波の始まりは、GoToトラベル開始の時期と重なるのだが、注目したいのはこの時期の実効再生産数の変化である。立ち上がりの部分は一般に誤差が大きいのだが(図で標準偏差を表すエラーバーが長い)、4程度以上とみられる。第2波のピーク値は150人を超えるが、沖縄県の人口は140万人であるから、東京都の1/10である。言い換えるとこの数字は東京都に換算すると1500人という大きな数になる。

 実効再生産数はある感染者が発症して隔離されるまでに平均何人感染させるかという数字である。ウィルスの感染力、生活様式に依存する。第2波が始まるまでは感染者がほとんどいない状況であるから発生しても感染に至らず消滅する$\mathcal R_t<1$の状況だったと見られる。沖縄県内に限れば実効再生産数が1以下から4以上まで増える理由はないから、外部起源と考えるべきである。

 この問題を定式化しよう。流れ図は図2のようになる。正確には県外からの短期流入者と言うべきだが、簡略化して観光客と言う。

コロナ図T1.2


図2 感染者を考慮したモデルの流れ図


感染可能者が感染者と接触して感染者になり、感染者が検査を経て隔離される。感染者には域内の感染者(感染パラメータ$\beta$)と感染した観光客感染パラメータ$\beta\eta$がいる。後者は短期滞在なので検査・隔離のプロセスを考えない。

モデルは感染した観光客数を$F$をSIRモデルに取り込むことで定義される。
\begin{align}
\frac{dS(t)}{dt} &= -\beta S(t)( I(t) + \eta F(t)) \tag{1}\\
\frac{dI(t)}{dt} &= \beta S(t) ( I(t) + \eta F(t)) - \gamma I(t) \tag{2}\\
\frac{dR(t)}{dt} &= \gamma I(t) \tag{3}
\end{align}
 ここで$\beta$は地元の人の感染力を表すパラメタ、$\gamma$は隔離の速さを表すパラメタで0.1である。観光客の感染力を表すパラメタは地元の人のそれを$\eta$倍にしている。$F(t)$は与えられた関数である。

 このモデルは海外からの帰国感染者を取り扱った連載(5)のモデルとよく似ているが、そこでは帰国感染者はそのまま日本に滞在し続ける。これに対し上記モデルは短期的に滞在するだけですぐに県外に出ることを想定している。

 実効再生産数$\mathcal R_t$は次のように求められる。感染者数
\begin{align*}
\frac{d}{dt}\log I(t) &= \frac{1}{I(t)} \frac{dI(t)}{dt} \\
&= \beta S(t)( 1 + \eta F(t)/I(t)) - \gamma
\end{align*}
この量は$\gamma (\mathcal R_t-1)$であるから、
\begin{align}
\mathcal R_t = (\beta S(t)/\gamma )( 1 + \eta F(t)/I(t)) \tag{4}
\end{align}
となる。第2項の$\eta F(t)/I(t)$が感染した観光客による影響である。

 $F(t)$を適当に仮定して、図2に似た形をざっと作ったものが図3である。7月中旬から8月上旬までの実効再生産数と感染者数の変化を大雑把には捉えていると見てよいだろう。

コロナ図T1.3


図3 モデル計算による感染者数と実効再生産数の推移




 この計算で、初期に感染した観光客が多数来沖したというシナリオを使っている。7月22日にGoTo トラベルが開始され、直後の23日から26日は4連休であるから、不自然ではない。使用した$F(t)$は図4である。この関数では100日間で3500人、ピーク時に一日当たり200人の感染した観光客がいたと仮定している。
 注意する必要があるのはこれらの数字はいわば延べ人数であるということである。たとえばピーク時に一日当たり200人といっても、毎日200人が流入する必要はない。例えば平均4日滞在するとすると、毎日流入する人数は200人の1/4、つまり50人である。50人ずつ流入すると4日目以降は毎日200人の感染者がいる勘定で、この基準をクリアする。3500人もその1/4の約900人になる。

コロナ図T1.4


図4 沖縄で滞在中の感染した観光客数(モデル計算で使用)



 沖縄県の統計によれば、この時期毎月20万~28万人、つまり毎日8000~9000人の観光客が来県しており、100日では80万~90万人になる(図5参照)。割合としては900/90万= 0.1%である。厚労省が6月に行った抗体検査によれば、抗体保有率は東京都で0.1%、大阪府で0.17%、宮城県で0.03%であったから、これとは矛盾しない数字だろう。
 児玉龍彦氏らが5月に行った調査による東京都の抗体保有率0.6%(毎日新聞5/15)なら、感染した観光客数の仮定に無理はない。

 上記を推測を支持する具体的が事実がある。7月中旬新宿歌舞伎町のホスト145人が那覇市松山のキャバクラに入り、翌週名古屋のホストが入った(沖縄県議会に参考人招致された沖縄県飲食業組合の鈴木理事長の証言)。この時期の新宿歌舞伎町の接待を伴う店を含む飲食業関係者の陽性率は40%だったから、$145\times 0.4 \simeq 60$人になる。


コロナ図T1.5


図5 来沖した観光客数


黒色の東京発とは、羽田空港と成田空港発を意味する。灰色はそれ以外の空港発。

 一方、感染係数 $ \beta $ の設定は次のようにした。観光客が存在しないときの値は、実効再生産数の最小値0.8を使って、基本再生産数$\beta S(0) /\gamma = 0.8$から決めた。問題は感染係数の倍率$\eta$であるが、これを5とした。倍率$\eta $と感染した観光客数とは相補的な関係にある;$\eta $は小さくするには感染した観光客数を想定する必要がある。

 8月中旬以降に対する同様なモデリングは行わないが、概観しておきたい。
 7月31日に知事の緊急事態宣言、8月5日にお盆の帰省を控える呼びかけがあり8月の観光客数は減っている。大きく増えるのが10月である。10月1日に東京がGoTo トラベルの対象に加えられたことが影響しているとは思うが、主因ではないように見える。図5の棒グラフで黒部分は東京発の部分であるが、東京都発ではなく、羽田空港と成田空港発を意味する。したがって東京都だけではなく近在の県を含んでいる。注目するのは東京都が全体に占める割合で、約5割で大きくは変化していない。10月の増加は全国的なものである。
 実効再生産数は9月半ば過ぎから増大している。週単位の観光客数は不明なので断定はできないが、この時期から観光客が増大して、それに伴い感染した観光客も増えたのではないかとみられる。

 比較のために北海道を示す(図6)。沖縄県と異なり、7月以降に実効再生産数の急激な増大は認められない。しかし、感染拡大は相当なものである。もともとある程度の感染者数が存在すれば、感染した観光客が流入しても実効再生産数の増加はそれほど顕著にはならないことに注意する必要があるだろう。

コロナ図T1.7


図6 北海道の感染者数と実効再生産数の推移



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技術系の某役所を退職後、あり余る時間を使い、妄説探索の旅へ。理系老人の怪刀乱魔。

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